中国中央病院呼吸器外科

呼吸器内科、放射線科、リハビリテーション科との連携を保ちながら、術前から術後までより包括的な診療を行うように心がけています。

呼吸器外科のご紹介

 肺がんを中心に、他臓器がんからの肺転移、胸腺腫・胸腺がん、悪性胸膜中皮腫などの悪性腫瘍、良性腫瘍、気胸、膿胸、多汗症、胸部外傷など広く手掛けています。

 呼吸器外科領域の最先端技術を積極的に取り入れて以下に紹介している取り組んでいます。多数の呼吸器内科医師も在籍しており、術前診断、気管支鏡を用いた処置、周術期の呼吸器トラブル、手術前後の抗がん剤治療においては密に連携しながら診療に当たっています。複数領域にまたがる医療スタッフと連携しチーム医療を行うことで、手術を安全に乗り切っていただき日常生活への復帰までをサポートします。

 医療関係者からのみでなく、患者さんからの直接のお問い合わせにも対応しておりますの、お気軽にご相談ください。

当科での肺がん手術の治療成績
当院での肺がん診療体制

肺がんの手術アプローチについて

 肺がんの手術は古くは肋骨の間を大きく切り開く開胸手術が行われていましたが、技術の進歩とともに小さな傷で手術が可能になってきました。小さい傷で行うことで見えにくくなるところを胸腔鏡というカメラを使ってモニター画面を見ながら行い、直接目で見る操作と組み合わせて行う手術法は胸腔鏡補助下手術(Hybrid Video-Assisted Thoracoscopic Surgery: hybrid VATS)と言われます。
 近年では胸腔鏡を使った手術の技術がさらに進歩し、直接目では見ずにモニター画面越しの操作だけで行う完全胸腔鏡手術(Complete VATS: cVATS)を取り入れる施設が多くなっています。
 cVATSは切除した肺を取り出すために必要な3~4cmの傷と手術操作のための道具を入れる小さな傷を合わせて計3~4個の創で行われるのが一般的です。
 当科では2013年頃からcVATSを導入し実績を積み重ね、単孔式胸腔鏡手術(uniportal VATS)を導入しており、さらに2024年よりロボット支援下手術(RATS)を導入しています。


報道 (一部抜粋)
総務省中国総合通信局

ICT利活用の普及促進のための、優良なICT関連施策事業としてHPに掲載されました

肺がんの場合の肺の切除範囲について

 肺を手術で切除する際にはどの程度の範囲の肺を取ってしまうかがひとつの問題になります。肺を切除した場合、切除範囲が大きくなるほど術後の呼吸機能が低下することになります。肺を極力温存しつつも肺がんを取り切るのに十分な切除範囲を考える必要があります。

 肺は呼吸のために必要で生命維持に欠かせない臓器です。肺を切除した場合、切除範囲が大きくなるほど術後の呼吸機能が低下することになります。基本的に、肺は再生する臓器ではありませんので、肺を極力温存しつつも肺がんを取り切るのに十分な切除範囲を考える必要があります。

 肺がんの標準術式は肺葉切除とされていましたが、その後の国内の臨床試験の結果を踏まえ、早期の肺がんには肺部分切除および肺区域切除等の縮小手術が有用な術式と考えられるようになっています。特にJCOG0802/WJOG0407Lという日本で行われた肺区域切除と肺葉切除を比較した大規模臨床試験の結果を受けて、これまでは肺葉切除が行われていた早期肺がんに対して今後は肺区域切除が行われる機会が増加しています。

 また高齢者の肺がんが増加していますが、肺区域切除であれば呼吸機能が悪い患者さんにも実施できる場合があります。

左右の肺葉

肺の区域


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部分切除や区域切除の問題点と克服のための当科の取り組み

 部分切除や区域切除が適応となるような早期肺がんは、手術中に見つけるのが難しい場合があります。
そういった時には肺がんの位置がわかるように、手術前に肺がんの近くに印をつけておく方法がとられます。

 部分切除や区域切除が適応となるような早期肺がんは手術中に見つけるのが難しい場合があり、手術前に肺がんの近くに印をつけておく方法がとられます。マーキングの方法としてよく行われているのは、CTを使いながら胸の体表から針を刺し金属ワイヤーを留置する方法です。0.1~2%程度の患者に空気塞栓(脳梗塞、心筋梗塞など)という重篤な合併症が起こると報告されています。
 合併症リスクの少ないマーキング法として、手術前に気管支鏡というカメラを使って肺の内側から肺の表面に色素で印をつける方法(Virtual Assisted Lung Mapping: VAL-MAP)が開発されています。気管支鏡の技術は必要となりますが安全に実施することができます。現在保険収載されている方法では印となる色素はインジゴカルミンという紫色の色素となりますが、これは肺の色と色調が似ており手術中に印がわかりにくいことがあります。これを改良した方法として蛍光色素のインドシアニングリーン(ICG)を使用する方法が考案され、当科も臨床試験として実施しその安全性と有効性を報告しています(誌上発表の3参照)

 ICG-VAL-MAPは安全に実施可能なマーキング方法というだけでなく、一度の検査で複数箇所の肺表面に印をつけることができるという利点があります。このマーキング方法を部分切除に用いた場合には、目で見たり手で触ったりしてもわかりにくい腫瘍を印で囲むことによって単一のマーキングのみの場合よりも正確に腫瘍が切除できるようになります。

ICG-VAL-MAP

 VAL-MAPを含め肺のマーキング法は肺表面に近いところにマーキングをするものです。肺は立体臓器であるため、腫瘍が深い位置にあった場合にはこれら肺表面のマーキングは腫瘍の深さの目印にならず、腫瘍の中枢側と切除肺の断端が近くなってしまうのが問題となります。当科ではICG-VAL-MAPを行う際にICGを気管支の壁に注射することでこれを腫瘍の中枢側のマーキングに用いる方法を考案し実施例を報告しています(誌上発表の5参照)。更に本年度から、SuReFind (RFID: 無線で情報をやり取りする技術を利用したマーカー)を導入しており、さらに多様な病状に対応できるように努めています。

VAL-MAP、RFID関連:一部抜粋

1. ICG併用VAL-MAPとICG静注区域間同定法を使用した胸腔鏡下拡大区域切除の1例
  肺癌59 4 378-83 2019
  平野豊 鳥越英次郎 鷲尾一浩 池田元洋 玄馬顕一 上岡博


2. Migration of a hookwire used as a video-assisted thoracoscopic surgery marker into the splenic artery
  Gen Thorac Cardiovasc Surg 68 194-8 2020
  Hidejiro Torigoe, Yutaka Hirano, Yoshitomo Ando, Kazuhiro Washio


3. ICG併用VAL-MAPとICG静注区域間同定法を用いた胸腔鏡下肺区域切除例の検討
  日呼外学誌 35 2-11 2021
  平野豊 荒木恒太 鳥越英次郎 松本千晶 八杉昌幸 池田元洋 尾形佳子 玄馬顕一 鷲尾一浩
  *呼吸器外科学会雑誌 優秀論文賞受賞


4. 小型肺癌に対する胸腔鏡下右S6b+S8a+S9a複合亜区域切除


  胸部外科 74 343-6 2021
  平野豊 荒木恒太 鷲尾一浩

5. 小型肺癌の中枢側メルクマールとしてindocyanine greenの気管支壁局注が有用であった1例
  肺癌62 1014-1020 2022
  荒木恒太 平野豊 林直宏 松本千晶 八杉昌幸 池田元洋 尾形佳子 玄馬健一 鷲尾一浩


6. ICG-VAL-MAPを用いた単孔式肺区域切除
  第98回中国四国外科学会総会シンポジウム
  荒木恒太 吉近 諒 藤井詩子 八杉昌幸 池田元洋 尾形佳子 玄馬健一 鷲尾一浩

7. 左上葉切除後に行ったSureFindとICG-VAL-MAPを用いたLigament approachによるSaroa支援下左S10b+c区域切除
第42回日本呼吸器外科学会学術集会
荒木恒太 真鍋健太 藤井詩子 八杉昌幸 池田元洋 尾形佳子 玄馬健一 鷲尾一浩


RATS関連:一部抜粋

1. はじめてのロボットが国産!Saroa導入の経験と見えてきたこと
  第41回日本呼吸器外科学術集会ランチョンセミナー
  鷲尾一浩


2. 進撃のサロア!この一年の進化
  第77回日本胸部外科定期学術集会アフタヌーンセミナー
  鷲尾一浩


3. Saroaを使用した肺区域切除術ー力覚フィードバックとFlexible scopeー
  第14回呼吸器外科ロボット手術手技研究会
  鷲尾一浩


4. 手術支援ロボットSaroaを国内初の商用導入「導入リスクは高いと覚悟」
  M3.com
  鷲尾一浩


5. 中・小規模病院への手術支援ロボット導入がもたらす可能性ーロボット未導入施設での新規国産手術ロボットSaroaの導入経験ー
第35回長野県内視鏡外科研究会
鷲尾一浩


6. 肺手術に導入した手術支援ロボットSaroaにフレキシブルスコープを使用する試み
  第37回日本内視鏡外科学会総会
  荒木恒太 藤井龍之介 鷲尾一浩


7. RATSにおける力覚フィードバックの実際ーなにができる?、なぜできる?ー
  第3回ITS seminar
  鷲尾一浩


8. 進化するサロア、上市後680日の軌跡
  第42回日本呼吸器外科学術集会アフタヌーンセミナー
  鷲尾一浩


9. Saroaを用いたReduced port RATSについての当院の現状
  第42回日本呼吸器外科学術集会パネルディスカッション
  荒木恒太 松本千晶 八杉昌幸 玄馬顕一 鷲尾一浩


10. 地方中小規模病院における国産ロボット導入の取り組み
  新医療 7月号特集(掲載予定)
  鷲尾一浩

医師紹介専門・資格

鷲尾 一浩(わしお かずひろ)
鷲尾 一浩(わしお かずひろ)副院長 医務局長
出身大学 高知医科大学(現 高知大学)
職歴 岡山大学腫瘍胸部外科・国立岡山医療センター
国立宇部医療センター・岡山労災病院等
H.Lee Moffit Cancer Center留学
資格 外科指導医・専門医・呼吸器外科専門医
がん治療認定医・CT肺癌検診認定医
岡山大学医学部医学科臨床教授
受賞歴 2007年日本内視鏡外科会
カール・ストルツ賞(会長賞)受賞
専門領域 呼吸器外科、一般胸部外科
扱う疾患 肺癌・気胸・縦隔腫瘍・多汗症等
荒木 恒太(あらき こうた)
荒木 恒太(あらき こうた)呼吸器外科医長
出身大学 岡山大学
職歴 兵庫県立淡路医療センター
広島市立広島市民病院
岡山大学病院
資格 外科専門医、呼吸器外科専門医、肺がんCT検診認定医師
専門領域 呼吸器外科、一般胸部外科
真鍋 建太(まなべ けんた)
真鍋 建太(まなべ けんた)呼吸器外科医員
出身大学 東京医科歯科大学
所属学会及び資格 日本外科学会、日本呼吸器外科学会、日本胸部外科学会、日本臨床外科学会
専門領域 呼吸器外科
医師からひとこと 患者さん一人ひとりに寄り添った医療を提供します。不安なこと、わからないことがあれば何でもご相談ください。