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肺がんとは?

肺がんの疫学

わが国の死因第1位は悪性新生物すなわち「がん」です。「がん」による死亡者数は年々増加していますが、「がん」で亡くなった人数を発生部位別に多い順に並べると肺がんは男性で第1位、女性でも大腸がんに次ぎ第2位になります。

肺がんの予防

国立がん研究センターは「肺がんは喫煙により確実に増加する」と発表しています。肺がんの予防には禁煙が有効といえます。煙草を吸う日本人が肺がんになる確率は、吸ったことのない人に比べて男性で4.5倍、女性で4.2倍であるとされています。1日あたりの煙草の本数が多いほど、また喫煙期間が長いほど肺がんになる危険性は高くなります。また、禁煙してもすぐに肺がんになる危険性が減る訳ではありません。非喫煙者と同等の肺がん発症率となるまでには20年以上の禁煙期間が必要とされています。

肺がんの組織型

肺がんは主に4種のタイプ(組織型)に分類されます。日本人の肺がんの60%以上を占める腺がん、喫煙との関連が深い扁平上皮がん、喫煙との関連が深く進行が速くて転移しやすい小細胞がん、大細胞がんの4種類です。小細胞がんとそれ以外の組織型である非小細胞がんでは治療方針が大きく異なります。

肺がんの病期分類

「がん」の拡がりの程度によって進行具合を分類するのが病期分類です。肺癌では、TNM分類というものを用います。T:腫瘍の大きさや周囲の臓器への浸潤、N:リンパ節転移、M:脳や肝臓など他の臓器への転移、のそれぞれの因子に基づいてI期からIV期の病期に分類します。

肺がんの治療

肺がんに限らず「がん」に対する治療は、手術・放射線治療・化学療法が中心となっています。前述の組織型、病期分類、そして基礎疾患(持病)などを含めた患者さんの全身状態によって治療法を選択しますが、患者さんの希望や社会的背景等も考慮して多職種のカンファレンスなどを経て治療方針を提案していきます。

全身状態が良好な患者さんにおける現時点での非小細胞肺がんに対する標準的治療を表1に示します。IA期(3cm以下の肺がんで周囲の臓器への浸潤、リンパ節転移、遠隔転移がない)では手術のみとなりますが、それ以外の病期では、すべて治療の中に化学療法(抗がん剤による治療)が組み込まれています。

非小細胞がんに対する化学療法は、シスプラチン・カルボプラチンといった白金製剤と第三世代抗がん剤と呼ばれる薬剤(イリノテカン・パクリタキセル・ドセタキセル・ビノレルビン・ゲムシタビン・ペメトレキセドなど)の2剤併用療法が基本となります。高齢者では第三世代抗がん剤単剤での投与も行われています。

分子標的治療薬による個別化治療

近年、基礎的な研究の進歩により、「がん」が発症するメカニズムが徐々に明らかになってきています。がん細胞は私たちの身体の中の正常細胞の遺伝子(がん遺伝子)に異常が起こることによって生み出されます。発がんは複数の遺伝子の異常が組み合わさることで起こる(多段階発がん)のですが、そのどこかで「がん」の増殖に必要な分子を特異的に抑制するような薬剤が開発されようになりました。このような薬剤を分子標的治療薬と呼んでいます。現在、日本で肺がんに対して使用可能な(健康保険での適応がある)分子標的治療薬を表2に示します。分子標的治療薬は一般的に嘔気・嘔吐、白血球減少、脱毛といった従来の抗がん剤に認められた副作用はあまりありません。しかし、副作用が全くないという訳ではなく、皮膚障害、下痢、全身倦怠感、肝機能障害、などといった副作用がしばしばみられ、時には間質性肺炎という致死的な副作用を引き起こすこともあります。

まとめ

わが国での死因第1位は「がん」です。その中で肺がんは大きな割合を占めています。肺がんによる死亡を減らすのに最も有効な方法は禁煙です。また、「がん」の治療の原則である早期発見早期治療は肺がんにも当てはまります。がん検診を定期的に受診しましょう。不幸にも肺がんになっても諦める必要はありません。

徐々にではありますが、肺がんの治療、特に薬物療法は進歩しており、個々の患者さんに有効な治療法を選ぶことが出来るようになってきています。

 

 内科医長 八杉昌幸