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成人の鼠径ヘルニア(脱腸)について

どんな症状でしょうか?

鼠径ヘルニアは足の付け根(鼠径部)が膨れる良性の病気です(図1)。足の付け根が急に膨らんだ、以前から膨らんでいたのが、徐々に大きくなってきたといわれて受診されます。
痛みに関しては膨らむ以外はどうもないといわれる方から違和感や重苦しい、また痛くてしょうがないといわれる方まで様々です。

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どうして足の付け根が膨れるのでしょうか?

これには図2 をご覧ください。お腹の壁の簡単な模式図です。表面には皮膚があり、その下には、筋肉や筋膜のよろいの組織があり、その下には薄い腹膜という膜があります。足の付け根の筋肉や筋膜が加齢にともなって弱くなり、隙間ができます。この隙間から腹膜がのびて袋状にとび出します。腹膜より下はお腹の中なので小腸などの臓器がこの袋に入り込み膨れます。立った状態だと膨れ、仰向けになると膨らみがなくなります。また膨らみを指で押さえるとグジュグジュとした感触とともに膨らみがなくなります。

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痛くなければ,ほっておいて大丈夫でしょうか?

鼠径ヘルニアには緊急を要す場合があります。膨らみが急に硬くなり、指で押さえても引っ込まなくなります。仰向けになっても膨らみは緊満したままで、なくなりません。引っ込めようと押さえると強い痛みを感じます。小腸がとび出し、筋肉や筋膜により絞めつけられ抜けなくなります。この状態を陥頓といいます(図3)。こうなると時に腸閉塞や腸壊死をおこすことがありますので急いで受診していただく必要があります。ただ、陥頓してしまう頻度は5%程度とされており、稀な出来事といえます。陥頓しなければ、緊急性はありません。

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治療にはどんなものがあるのでしょうか?

成人の鼠径ヘルニアは、自然に治ることはありません。薬や筋力トレーニング、脱腸帯では治らないのです。手術だけが唯一の根治的な治療であり、手術以外では治りません。

どんな手術をするのでしょうか?

手術となると心配になる方が多くいらっしゃると思います。鼠径部に4 ~ 5㎝ほどの皮膚切開をおき、袋状にとび出した腹膜を切除し、筋肉や筋膜の隙間にメッシュ(人工の補強材料)をあてて補強してあげます。当院では、現在は図4 のようなメッシュを主に使用しています。入院は3 日間で、手術は主に腰椎麻酔下に行い、通常30 ~ 40 分ほどで終了します。1 年間に当院で約100 件、日本で16 万件行われている定型的な安全性の高い手術といえます。

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鼠径ヘルニアは陥頓しなければ、慌てる必要のない病気ですが、日常生活で不快感がある方は、都合のよい時を利用して治療をされてはいかがでしょうか。

外科医長 佐藤直広