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肺癌の放射線治療について

中国中央病院からの健康アドバイス 第69回

①放射線治療

癌の治療の3本柱は、手術、放射線治療、化学療法と言われており、放射線治療を受けられる患者さんは増えていますが、放射線治療はまだ一般的には知らない方も多いと思います。今回は肺癌を例にとって放射線治療の実際を説明します。

②1期の肺癌に体幹部定位照射

最近は放射線治療の精度の向上により、ピンポイントで放射線を照射する体幹部定位照射ができるようになり、早期の肺がんに対する治療成績は向上しました。早期がんの場合、標準治療とされているのは手術ですが、高齢や合併症のために手術が困難な場合や、患者さんが手術を拒否される場合があります。このような場合でも、手術より侵襲の少ない放射線治療なら行うことができます。体幹部定位照射ができるようになってからは治療成績が向上して、手術に負けなくなっています。また、体幹部定位照射に必要な期間は1週間くらいですみます。

③局所進行肺癌に対して化学放射線治療

局所進行肺癌(おもに3期)に対しては、放射線治療と化学療法を併用する化学放射線治療が標準的な治療になっています。この場合、肺癌と所属リンパ節領域に約6週間かけて30回くらいの放射線治療をおこないます。抗がん剤は、放射線の効果を高める増感作用を持っているものがあり、それを利用して放射線と抗がん剤を併用することにより治療効果を最大限に引き出します。

④進行期肺癌(4期)の骨や脳への転移に対する放射線治療

進行肺がん(4期)に対しては、緩和治療や姑息的治療(治癒を目的とせず症状緩和だけを目的とした治療)として放射線治療が行われています。

肺癌で多い遠隔転移は骨転移です。骨転移の疼痛は多くの進行した肺癌の患者さんを苦しめますが、放射線治療はこの疼痛を抑える有効な手段です。骨転移の放射線治療の治療期間は標準的には2週間くらいですが、患者さんの状態や病状で、1週間以内に短縮したり、3週間以上かかる場合もあります。また、全身多発骨転移には放射性物質(ストロンチウム-89)による注射による治療もおこなわれています。

肺癌の場合、脳にも転移する場合があります。脳には、血流脳関門という脳を守るためのシステムのために、血液中の抗がん剤が脳には到達しにくくなっており、抗がん剤では脳転移の治療が難しくなっています。しかし、血液脳関門の影響を受けない放射線治療なら脳転移にも有効な治療手段になります。病変の状態によってはガンマナイフやサイバーナイフのような高精度放射線治療も有効です。

⑤最後に

放射線治療は照射による痛みをともなわず、一般的に他の癌の治療法と比べて体の負担も少ないです。放射線被曝や副作用が気になる方もおられると思いますが、正確な放射線治療をおこなえば、放射線による障害をおさえることが可能です。そのために放射線治療では放射線治療医、医学物理士、放射線治療技師、看護師が協力して、放射線治療の精度管理や治療中の患者さんのケアに努めています。

放射線治療科部長 水田昭文