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肺の抗酸菌感染症について(平成26年4月号より)

結核について

結核は、日本では、戦後の混乱続く1950年代は死亡者数が年間10万人を超えていました。その後死亡者数は着実に減少してきましたが、1997年、新登録患者数が前年に比べわずかに上昇したことから厚生省は1999年結核緊急事態宣言を発しました。その後はまずまずの減少を続けています。しかし、世界的に見て日本は依然として中蔓延国です。先進国の中では日本の結核罹患率は依然高く、カナダ、米国の4倍です。

一つに20、30歳代での減少速度が鈍いことがあります。最近、若い芸能人でも、結核を発病し治療を受け復帰されている話題がありましたが、若くて健康そうな人でも結核になる可能性があるということです。

また、高齢者結核の増加があります。既感染率が高いことや、糖尿病、悪性腫瘍、認知症等の合併症が多いこと等が原因として考えられます。医療機関受診の遅れ、診断の遅れ、結核の重症化、軽症でも全身状態が悪化しやすい等のことが考えられます。

結核は結核菌が体に入ることで生じる感染症です。肺以外にも、腎臓、リンパ節、骨、脳などに感染します。結核菌は非常に小さく、長時間空中を浮遊し、空気の流れにより広く伝播されます。従って、発病して排菌している人は隔離が必要となります。

ところで、感染しても発病するのは5~10%ですので、感染すなわち発病ではありません。発病は、感染後1年以内が最も高率で、その後発病する率は低くなってきますが、数十年後に発病する場合もあります。肺結核の主な症状としては、咳、痰、発熱、疲労倦怠感、体重減少等がありますが、特に症状がない場合もあります。一時的に症状が改善したように見えながら悪化する為本人も気がつかないうちに周囲に感染を広げてしまうこともあります。咳、痰が2週間以上続く場合は、痰の検査や胸のレントゲン検査を受けてみることも大事です。

結核の最も確実な診断は、痰や胃液、気管支洗浄液などから結核菌を検出することです。従来の方法では、たくさんの結核菌がいないと検出できないことや、時間がかかるという欠点がありましたが、現在では、微量の結核菌の遣伝子を増幅して検出する方法によって数日間で非常に高感度に結核菌を検出できるようになりました。また、感染しているかどうかの検査も、従来のツベルクリン反応検査では、BCGによる反応と結核菌感染の鑑別ができないという欠点がありましたが、近年は、クォンティフェロン検査によって、鑑別可能となりました。

結核の治療は、最初の2週間から2か月程度は入院が必要です。抗結核薬の内服を開始し、副作用がなく確実に内服でき、痰からの排菌がなくなれば、退院可能です。退院後も全過程で約6か月~1年程度の服薬の継続が必要ですが、治療をきちんと行えば、治る疾患です。服薬が不規則であったり、途中で中断した場合は、薬が効かない耐性菌となることがあり、治療困難になります。治療が効かず、結核病棟から退院できなくなる可能性があります。

非結核性抗酸菌症

結核の仲間の菌で、酸性色素に抵抗性を示すことから抗酸菌と名付けられたグループに属する菌です。非結核性抗酸菌は、30種類ほどあり、その中の数種が、わが国の肺非結核性抗酸菌症のほとんどを占めています。この菌は、結核菌とは異なり、人から人へは感染しません。主に土や水などの自然環境に広く存在しており、環境から感染すると考えられています。結核のように隔離する必要はありません。また、通常の健康状態であれば、急速に悪化することも稀です。

症状は、結核と同様に咳や痰、発熱や全身倦怠感等です。検査も同様に痰の検査やレントゲン検査を行います。診断に関しては、結核同様、微量の菌の遣伝子を増幅して検出することができます。

治療には、抗結核薬等を用いますが、結核に比べると効きにくく、治療期間が長くなったり、再発することもあります。

生活の中で土いじりをしたり水仕事が多い、中高年の女性に多い疾患ですが、通常の健康状態であれば悪化しにくいので、まずは、時々痰の検査やレントゲンの検査をしながら経過観察となります。無理のかからないように、規則正しい生活をし、咳、痰、熱等の症状があれば、検査を受けることが大事です。

内科医長 栗本悦子