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日本有数の血液内科をめざして(平成24年11月号より)

まずは中国中央病院をとりまく医療圏から、話を進めたいと思います。中国中央病院は、広島県東部の人口47万人からなる広島第2位の中核市、福山市に在ります。周辺には尾道市や三原市、さらに岡山県西部の笠岡市、井原市などがあり、備後地区(一部備中)と呼ばれる一帯が医療圈となります。この地区全体では、人口がおよそ90万人にも達します。そこで、「備後(備中)地区の患者さんは、備後地区で」を合言葉に地域の患者さんからしっかりと診療に取り組みたいと思っております。

備後地区の血液内科の現状ですが、福山市には日本血液学会認定研修施設が当院を含めて2施設しかありません。1施設は血液内科を標榜するにとどまり、実質的には当院が備後地区の血液内科を担う中核病院にあると言えます。

当院は備後地域における岡山大学第二内科(現血液・腫瘍・呼吸器内科)の関連病院として、古くから血液疾患患者さんの紹介が多かったようです。昭和55年に宮田明(前副院長、平成22年3月退職)が大学の血液グループから当院へ赴任し血液疾患を中心に診療することになり、平成元年頃には医療細分化の流れにしたがい専門的な診療部門としての体制が整いました。平成8年に自家末梢血幹細胞移植を開始、平成22年には広島東部地区初の同種末梢血幹細胞移植を施行しました。平成23年から新たに血液内科部長として木口亨が赴任しました。

当院の施設についてお話します。血液科病棟にはベッド数が52床あり、その中には10床の無菌病棟を別棟で有し、看護師詰所も隣接してあります。機器整備としては、血液成分分離装置が1台あり、末梢血幹細胞の採取や顆粒球を採取するのに使われています。特筆すべきは、今年度(2012年)から全身放射線照射(total body irradiation,TBI)が設置されました。TBIが可能な施設は、広島県東部(呉市以東)では、当院が唯一の施設であります。

次に、当院のスタッフについてお話しします。今年度春から新谷憲治病院長を迎え、総勢6名となりました。血液内科専門医が4名、さらにがん薬物療法専門医1名を有します。当院では、もっぱら血液がんを中心とした診療が行われていましたが、新谷病院長が来られ、血栓、止血分野の診断と治療のレベルが格段に向上しました。スタッフから今年度新たに血液内科専門医が養成され、人材育成の面でも着実な成果をあげております。

診療実績ですが、2011年度は延べ入院件数は465件でした。内訳は、悪性リンパ種が192件、急性白血病が71件、多発性骨髄腫が89件、骨髄異形成症候群が33件、再生不良性貧血が15件、慢性リンパ性白血病が12件などとなっております。2010年度のDPCの占有ベッド数データから当院は、急性白血病は日本全国13位、非ホジキンリンパ腫は126位、慢性白血病・骨髄増殖性疾患は47位でした。急性白血病や多発性骨髄腫、再生不良性貧血等が多いのが当院の特徴と言えます。2011年度新規発症患者は、急性骨髄性白血病が19例、急性リンパ性白血病が5例を数えました。急性白血病の患者数は、人口10万人の発症頻度から換算すると福山市の人口をほぼカバーすることになります。しかし、備後地区全体で考えるといまだ半分程度にしか達しておらず、ここでも「備後地区の患者さんは、備後地区で」の合言葉をもう一度思い出すこととなります。

当科では、積極的に医師主導臨床試験の参加に取り組んでおります。代表的なものには、成人白血病治療共同研究グループ(JALSG)や日本細胞移植研究会(JSCT)などがあり、その参加数は25以上にものぼります。臨床試験への参加は、医療の発展に寄与することが第一義ではありますが、一方、患者さんに最先端の医療を提供することとも考えられます。当院にいながらにして、日本国内のどこの施設にも劣らない治療を提供することが一番大切なことだと常日頃から思っております。

「ローカルからグローバルへ」世界に冠たる病院をめざすというのが、血液内科部長として赴任した日から一貫した目標であります。ですが、まずその前に、日本有数の血液内科を目指さなければなりません。そのためには、どうしたらいいのでしょう?

そのためには、造血幹細胞移植(自家・同種)を積極的に取り組むことだと思いました。そして、非血縁者間骨髄移植と臍帯血移植の認定施設取得をすることで、まさにフルラインでの医療を提供可能にすることだと思われました。施設が整備されることで、備後地区の患者さんが他地区の病院を受診しなくても、すべての治療を当院で行うことが可能となります。そうなれば、備後地区(備中)の血液疾患患者さんは今後より一層当院に集約されると思われます。血液内科レジデントは、豊富な患者さんが集まり、整備された施設での研修を希望して、当院を選択してくれることが期待されます。そうして、ひと、人が集まる病院をめざします。ひとが集まることが、病院のパワーとなり、いつのまにか備後地区を超えて、日本有数の血液内科へ発展するものと思っております。

また、造血間細胞移植の充実には、平行して全身放射線照射(TBI)の早期設置が必須と思われました。そこで、2011年秋、TBIの設置に向けた交渉が開始され、年度末にはTBI設置が承認されました。放射線科(部)や看護部、事務部等の全面的協力の下、2012年9月当院にTBIが設置されました。10月には移植前処置として、当院初のTBIが無事に行われました。

2012年3月から2012年10月までに合計13症例の造血幹細胞移植を施行しました。同種移植が4症例、自家末梢血幹細胞移植が9症例です。同種移植の内訳は、成人T細胞白血病・リンパ種、Ph陽性急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、激症型最重症再生不良性貧血と多種多様な症例に施行しました。

2012年度の目標であった、非血縁者間骨髄移植認定施設条件である年間4症例の同種造血間細胞移植がおかげさまで完遂しました。今後は骨髄採取の実績を重ね、認定施設取得実現を喫繁にめざします。

さらに、今年度は高度先進医療の顆粒球輸血療法にも全病院を挙げて取り組むことができました。携わってくれたスタッフは、医師はもちろん、臨床工学技士、放射線部、検査部、薬剤部、会計課、医事課等オールスタッフとなりました。顆粒球輸血療法が実施された施設は、ここ数年では中国と四国地方合わせてわずか3施設しかありません。以上のことからも当院がスタッフと施設に恵まれ、血液内科の今後さらなる発展が期待される証であります。

最後に、当院の取り組みが、安心して最良の診療を受けたいと思う血液疾患患者さんに少しでも貢献できればと切に願い、この稿を終わりにしたいと思います。

血液内科部長 木口亨