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肺がん手術の変遷-低侵襲化について-(平成23年7月号より)

呼吸器診療にCTが用いられることも増えより早期の肺癌が多く発見されことが増えてきました。同時に、治療後のより早期の社会復帰、患者さんの高齢化もあり低侵襲手術への一般の方々の興味も増してきているように感じます。今回、肺がん手術の変遷とそれに伴う低侵襲化のための当科での取り組みについて説明したいと思います。

現在、「肺がんに対する標準手術」とは「肺葉(あるいはそれ以上)切除+肺門部と同側縦隔リンパ節郭清」ということになります。人間の肺は右3つ(上・中・下葉)、左2つ(上・下葉)の合計5つの袋からなっています。そのうちの最低1袋を切除しますから、標準手術後は肺の袋の数は一つ減って5分の4になります。手術前に比べて呼吸の機能は約20%減少し、それが一生続くことになります。もちろん普通の呼吸機能を持つ方でしたら、標準手術を行ったところで日常生活に困るということはまずありませんが、高齢者や呼吸機能の悪い方にとってはそうでないともいえます。手術を低侵襲化する方法には以下の3つがあります。1)切除する肺の量を小さくする方法(縮小手術)、2)リンパ節の郭清範囲を狭める方法、3)胸腔鏡下手術です。

1)縮小手術

縮小手術にも2種類あり、最も小さく切除できるのが肺部分切除です。また部分切除より切除範囲はやや大きくなりますが、解剖学的特徴に従って肺を区域単位で切除する方法が区域切除であり肺癌のリンパ節転移経路を考えると技術的にも少し難しい方法ではありますが根治性は上がるのではないかと考え方が出てきています。

2)リンパ節郭清範囲の縮小

リンパ節の郭清範囲は「肺癌取扱い規約」によって規定されていますが、近年不要と思われる部位のリンパ節はあえて郭清せず侵襲を少なくしようと考えられています。

3)胸腔鏡補助下手術Video-assistedThoracicSurgery(VATS)

以前は肺がんの手術といえば、胸を横切るように、約20cmから30cm切って、広背筋、前鋸筋、肋間筋等の呼吸に必要な筋肉を切離し、肋骨を1~2本切断して手術を行っていました。ここ数年来胸腔鏡というカメラを胸腔内に挿入し、その画像をモニターで見ながら手術を行うVATSと呼ばれる手術が施行可能になってきました。VATSには大きく分けて、ハイブリッド胸腔鏡下手術(Hybrid VATS)と完全胸腔鏡下手術(Complete VATS)という二つの方法があります。その二つの大きな違いは、Hybrid VATSは胸腔鏡で映し出されたモニター画面を見たり、6cmの創から直接覗き込んで見たりしながら手術を行うのに対して、Complete VATSは、すべて胸腔鏡で映し出されたモニター画面を見て手術を行うという違いがあります。そのため創は最大のもので3cm程度ですみ、呼吸筋の切離も最小限ですみ、術後の疼痛や機能回復もさらに良好になると思われます。

 Q1:CompleteVATSとは?

肺癌は胸腔内蔵器であり、胸腔内へのアプローチ法には主に以下があり侵襲の大きさもそれそれ異なります。

1.標準開胸:

皮膚切開・呼吸筋の切離範囲も大きく、肋骨も1~2本切離する

2.HybridVATS:

標準開胸より皮膚切開は小さく、肋骨も切離しない事が多いが、呼吸筋の切離はかなり広い範囲で行われる

3.CompleteVATS:

HybridVATSよりさらに皮膚切開が小さく、呼吸筋の切離範囲も極めて少ない

Q2:どのような施設で行われているか?

技術的には標準開胸→HybridVATS→CompleteVATSと困難になる傾向があり、標準的に行われる施設はいまた少ないのが現状です。

胸部外科部長 鷲尾一浩