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鼠径(そけい)ヘルニアについて

「力んだ時や立った時に足の付け根あたりが膨らむ」という症状を訴えて受診される方がおられます。足の付け根あたりを鼠径部と呼びますが、鼠径ヘルニアが疑われます。鼠径ヘルニアは、一般的によく脱腸(だっちょう)と言われる病気です。鼠径部は、男性では精巣で作られた精子を運ぶ精管や精巣を養う血管が、また女性では子宮を固定する靭帯が通る鼠径管という構造があります。またこの周囲は筋肉・筋膜が複雑に重なっています。これらの組織が弱くなり、腹圧を支えきれなくなるとお腹の中の腸や脂肪などの組織が押し出されるようになり、足の付け根が膨らむようになります。脱出する部位によって、内鼠径ヘルニア、外鼠径ヘルニアに分類されます。さらにすぐ近くの大腿管という部位から脱出する大腿ヘルニアという病気もあり、これらをすべて合わせて鼠径部ヘルニアと呼ぶ場合があります。

通常は膨らんでも寝たり押しこむと元に戻る状態(還納可能な状態)ですが、まれに元に戻らなくなり強い痛みや嘔吐を伴う状態(かんとんヘルニア)になることがあり、この場合は緊急手術が必要になります。これとは別に還納はできないが、膨隆以外の症状がなく、緊急性がない状態は非還納性ヘルニアといって区別されます。

成人の鼠径ヘルニアは自然に治ることはなく、治そうとすると手術しかありません。ただし、かんとん状態は別として、「出たり入ったりするが困っていない」と本人が言われる場合は、手術せずに様子をみることもあります。かんとん状態になる確率は1%程度とさほど高くないとされています。本人が「この状態を治したい」と希望されれば、手術を予定していくようになります。

手術は、弱くなった部位を確認し、そこを補強するようにします。通常はメッシュと呼ばれる人工の網目状のシートを用いて補強します。ズボンの膝の部分が破れた場合に、そこを縫いよせてもまた裂けますが、そこに別の布をあてて周りに固定するイメージでしょうか。手術は、鼠径部を横に切開して修復する方法と、少し離れた臍と左右の側腹部などから腹腔鏡で見ながら修復する方法とがあります。どちらも手術の成績(再発率)はほとんど変わりないとされていますが、腹腔鏡手術の方が術後の長く持続する痛みが少ないとの報告があります。また反対側もヘルニアがあるかどうかの確認もしやすいので、最近は当院では可能であれば腹腔鏡手術を第一選択としています。ただし以前にお腹の手術をしていたり前立腺の手術をしている場合は困難が予想されるため、手術方法は慎重に検討しております。

 

外科医長 大多和 泰幸