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はじめてみませんか、健康の積み立て~動脈硬化の話~(平成24年1月号より)

まずは前置きです。少し長いです。

みなさん、病気というと何を想像しますか?頭痛、腹痛、嘔吐、下痢、発熱、めまい、倦怠感・・・あるいは、糖尿病、脳卒中、心筋梗塞、癌、白血病などなど。

当院には学校の先生がよく受診されるので、小学校の先生に尋ねてみたことがあります。『先生、小学校1年生に病気ってな~に?と質問するとどんな答えが返ってくるものでしょう?』『そりゃあ、先生、頭いた、お腹いた、熱、風邪あたりじゃないでしょうか。』『じゃあ、6年生だと?』『表現が頭痛や腹痛になって、癌や糖尿病なんて病名も出てくると思いますよ。』

症状がある→病気だ→病名は?という理解の順番があるようです。私自身、最近した病気といえば、下痢、頭痛、風邪、2日酔!?など症状ばかりが思い出されます。症状があれば何かの病気で、症状がなくなれば病気が治ったというのが一般的な理解だと思います。では逆に、病気なら必す症状があるのでしょうか?あるいは、症状がなければ病気ではないのでしょうか?

症状がなくても病気です。

医師として日々病気の方と接していますが、みなさんいつも症状があるわけではありません。私は心臓が専門ですから、狭心症や心筋梗塞、心不全を患った方が来られます。胸痛や息切れで入院され手術を受けた方もいますが、退院後は症状のない方も多いのです。しかしながら、調子がよくても通院してもらいます。治療を続けないと病気が再発したり、悪化したりするためです。どうして再発したり、悪化したりするのでしょうか?病気が治って無くなったわけではないからです。また“病気のもと”’が残っているからです。

病気のもと、動脈硬化。

やっと前置きが終わりました。ここから動脈硬化の話です。動脈硬化とは血管(特に動脈)が痛んだ状態です。どうして血管が痛むのか説明します。血管には血液が流れています。じつは血液はサラサラと川のように流れているわけではありません。首筋や手首に指を当ててみれば分かると思いますが、バクバクと血管触れることができます。心臓から押し出された血液が、勢いよく流れているからです。心臓は1分間に70回くらい拍動するので、1時間で70×60の4200回、1日で4200×24の約10万回も動いています。つまり、血管の内側は血液で1日10万回もパクパクと打たれているわけです。こんなに打たれたら傷の1つや2つや3つできますよね。人間には治る力があるので、傷ついた血管も修復されます。しかしながら、いつも必す元通りというわけではなさそうです。血管が治る際に材料であるコレステロールなどが必要以上に貯まってしまい内側が狭くなることがあります。また、石灰化といってカルシウムが沈着したり、瘤(リュウ)といって血管がしたいに膨らんで瘤(コブ)になる場合もあります。このように血管が痛んで変質、変形した状態を動脈硬化といいます。動脈硬化自体は何の症状も起こしません。狭くなった血管が詰まったり、膨らんだ瘤が破れてしてはじめて症状が起きるわけです。

動脈硬化が引き起こす病気。

動脈硬化がなぜいけないのか。それは、人の命を奪い、時に周囲の人たちの人生にも影響を与える病気のもとだからです。表1は日本人の死因です。毎年100万人が亡くなりますが、死因の1位は癌、2位は心蔵病、3位は脳卒中など脳血管疾患です。心臓病と脳血管疾患は動脈硬化が主な原因とされています。このように人命を奪う病気のもとが動脈硬化なのです。また、動脈硬化は本人たけではなく周囲の人たちにも影響を与えることがあります。脳卒中になると程度の差はありますが、腕や脚が不自由になる場合があります。一命は取りとめても、不自由な身体で残りの人生を送らなければなりません。もし、歩けなくなったら・・・。トイレに行けないかもしれません。車椅子が必要になるかもしれません。周囲の人たちの助けを借りないと、今まで当たり前たったことができなくなるかもしれないのです。厄介な動脈硬化を予防するには、やはり“病気(動脈硬化)のもと”を見つけて治療するに限ります。

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動脈硬化のもと、高血圧・脂質異常・糖尿病・タバコ。

動脈硬化は血管が痛んだ状態だと書きました。血圧は血管にかかる圧力ですから、動脈硬化に直結しますね。塩分を控えましょう。コレステロールや糖分は血管の材料でもあるのですが、多すぎると“過ぎたるは猶”です。脂っこいものを避け、食べ過ぎないようにしましょう。医師に処方された薬があれば必す飲みましょう。タバコは発癌物質を含み、また血管を痛めることが分かっています。つまり、癌にも動脈硬化にもなりやすいのです。当然、禁煙ですね。

動脈硬化の検査

症状のない動脈硬化ですが、調べる方法があります。といっても、全身の血管をくまなく見るわけにはいきませんので、一部の血管になります。頸動脈は超音波検査(エコー)で簡単に観察できます。腹部大動脈もエコーで調べられます。また、腕と脚の血圧を同時に測ることで、動脈硬化を推測する検査もあります。さらに、心臓を取り巻く血管(冠動脈)をCTで評価することも可能です。当院でも昨年11月から心臓CT検査を行っておりますので、心配な方は循環器内科を受診してみて下さい。

健康の積み立て

動脈硬化やそのもとである高血圧・脂質異常・糖尿病・喫煙習慣は立派な病気ですが、症状が起きることは多くありません。症状がないのに病気たといわれ、治療といえば美味しいものを腹一杯食べず、ごろごろせずに身体を動かし、好きなタバコを止めることが基本になります。

これは面白いことではないですし、がんばれば症状が和らぐわけでもありません。もともと症状がないのですから。私からの提案は、治療をお医者さんがしてくれるものと思わず、自らが行う健康の積み立てと考えることです。日々の生活習慣を変えることが治療の基本です。医師(他人)にできることは限られますよね。

内科医長 竹内一文