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悪性リンパ腫について(平成23年5月号より)

 ①悪性リンパ腫とは?

悪性リンパ腫とはリンパ系の細胞から発生する癌です。リンパ系の細胞とは人の免疫システムを担う細胞で、リンパ節に多く存在しますが全身に分布している細胞です。それ故全身のどこにでも発症する可能性があります。リンパ系細胞がある程度成熟してから癌化したものが悪性リンパ腫であり、リンパ性白血病とは異なる病気です。

 ②なぜ悪性リンパ腫になるの?

遺伝子の異常により発生する事が分かってきています。しかしEVウイルスなどの関与が指摘されている異常があるものの、まだ詳細は不明です。遺伝子の異常と書きましたが、親から子へと遺伝するという意味ではありません。

 ③悪性リンパ腫の種類

悪性リンパ腫とはリンパ系組織から発生する癌の総称です。その中で組織の形態によって非常に多くの疾患に分類されます。それぞれの疾患によって経過や治療効果が異なりますので、患者さんによって治療方針が異なります。

分類はまず、ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に分かれます。非ホジキンリンパ腫はそこからB細胞由来のものとT細胞由来のものに分類されます。

 ④悪性リンパ腫の症状

首や、足の付け根などのリンパ節の多い部分に痛みを伴わないしこりが触れる事が多いです。しかし胸やお腹の中のリンパ節が腫れている場合、他臓器の症状が出るまで分からないこともあります。全身症状として特徴的なのは発熱、体重減少、著明な寝汗でB症状と呼ばれます。

 ⑤検査について

1)リンパ節生検

腫れているリンパ節を手術で取り出します。体の表面に近いリンパ節が腫れている場合は、局所麻酔でも手術できます。しかし、お腹や胸の中のリンパ節が腫れている場合は全身麻酔での手術が必要になることがあります。取り出したリンパ節を顕微鏡検査、遺伝子検査などで診断していきます。

2)画像検査

病気の広がりを見るために、CT検査、MRI検査、PET-CT検査、Gaシンチグラフィーなどを行います。全ての検査を行う分けではなく病変の場所に応じて検査を選択します。

3)血液検査

ウイルス感染によって発症するリンパ腫もあるため、肝炎ウイルス、HTLV1ウイルス、EVウイルス、HIVウイルスなどの検索を行います。病気の勢いを見る検査としては、LDH,可溶性lL-2レセプターという値が重要です。

⑥治療について

1)経過観察

リンパ腫の種類によっては無症状で何年も経過するものもあります。その場合抗がん剤治療を行うよりも、経過を見た方が良い場合もあります。定期的に検査をし、増悪傾向や症状が出てきた場合治療を開始します。

2)放射線治療

高エネルキーのX線を病変に照射します。照射部位にのみ治療効果があります。病気の種類と大きさによっては放射線のみの治療で終了することもあります。しかし、リンパ腫の多くは全身の病気で、放射線治療だけでは治癒しません。化学療法と併用されることが多いです。

3)化学療法

所謂抗がん剤治療です。内服や点滴の杭がん剤で治療します。通常複数の抗がん剤を併用して治療します。最も良く使用されるのはホジキンリンパ腫であれば、ABVD療法、非ホジキンリンパ腫であればCHOP療法という抗がん剤の組み合わせです。患者さんの全身状態や病型によって使用する薬剤は変わります。

抗がん剤は腫瘍細胞だけでなく正常の細胞にもダメージを与えます。薬によって副作用が異なりますので、治療を受ける場合は主治医・薬剤師の説明を聞きよく相談してくたさい。

4)生物学的製剤

抗がん剤と異なり、腫瘍細胞の特定のターゲットに対して効果を発する薬です。代表的な薬がリツキサンです。CD20という腫瘍細胞に発現した蛋白を目印に腫瘍細胞:を攻撃します。最近では放射性同位元素を結合した薬剤も開発されています。

5)造血幹細胞移植

通常の抗がん剤治療では再発する可能性が高い場合選択される治療になります。当院では自家末梢血幹細胞移植という方法が行えます。血液は骨髓の中で、造血幹細胞から作られていきます。あまりに多量の抗がん剤を使用すると、この造血幹細胞がダメージを受けて正常に血液が造れなくなってしまいます。しかしあらかじめ造血幹細胞を冷凍保存しておけば、通常使用できない多量の抗がん剤を使うことができ、より強い抗腫瘍効果を発揮することができます。

悪性リンパ腫は治癒を望める病気ですが、残念ながら全ての患者さんが治癒しているわけではありません。しかし血液の病気は治療の進歩が早い分野であり、予後も徐々に改善してきています。一人でも多くの患者さんが治癒されることを願っています。

内科医員 木村耕介