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「てんかん」と「けいれん」

中国中央病院からの健康アドバイス 第47

てんかんという病気をご存じですか?

「けいれんして倒れるやつでしょ?」う~ん、間違いではないが正しくもない。てんかんは、脳の神経細胞が過剰に興奮することによって起こる「発作」を繰り返すもので、単一の病気ではなく症候群です。脳や神経の病気の症状の1つとしててんかんが起こる場合もあるし、てんかん発作が唯一の症状である病気もあります。

てんかん発作は一時的な脳の機能障害で起こるものですから、けいれん以外にも様々な神経症状が「発作」としてみられます。しかし、けいれん、特に全身のけいれんは発作症状として最も目立って人の注意を引くために、「てんかんとはけいれんする病気」、「けいれん=てんかん」と認識されていることが少なくないようです。てんかん発作の症状には、他人が見てすぐにわかるような、手や足、あるいは半身や全身のけいれんという運動症状のほかにも、身体の一部がしびれるとか、変な光が見えるとか、変な匂いがするなどというような感覚症状だけの発作や、全身が総毛立ち汗が吹き出し瞳孔が広がるなどの自律神経症状を示す発作など本人にしかわからない発作もあります。また、意識がぼーっとして返事をしなくなり、その間の記憶もないという発作もよく見られます。このような発作は、短いものでは数秒、長いものでも2~3分で終わることがふつうです。

てんかんは、このような発作を繰り返す病気ですので、発作らしい症状が1回起こっただけではてんかんとは言えません。けいれんが起こる病気はてんかん以外にもたくさんあります。脳疾患はもちろんのこと、低血糖などの代謝性疾患、内分泌疾患、低酸素症、肝性脳症、尿毒症性脳症、薬物中毒など様々な病気がけいれんを起こします。てんかんは、特徴的な発作を繰り返すことと、脳波の異常で診断されます。医師の前で発作を起こすことは多くないので、正確な診断のためには、入院して発作時のビデオと脳波を同時に記録する検査(図1)も行われます。脳のCTやMRIの検査で何か異常が見つかる場合もありますが、てんかんは脳の機能障害による病気ですので、脳の形態的な異常はむしろ多くはありません。

てんかんの治療は薬物治療が中心になりますが、症候群としてのてんかんの種類や発作のタイプによって使用する薬は少し違ってきます。また、同じタイプの発作でも個人によって薬の効果が少しずつ違うため、最もよく効くと思われるものから始めて、患者さんごとに効果を確かめながら一番有効な薬を探し出していくことが必要になります。日本では、てんかんの薬の認可が遅れていて、欧米と比較すると薬の種類も半分程度でしたが、この数年で新しい抗てんかん薬の認可が進み、薬物治療の幅が広がりました。

一方では、薬ではなかなか十分な効果が得られないてんかんもあり、その一部には外科治療で効果が期待できるてんかんがあります。外科治療とは脳神経外科手術のことです。手術でよくなる可能性があるかどうかは、綿密な検査が重要になります。1回の検査で手術は無理と言われてもがっかりする必要はなく、後日に再度検査をした結果から手術が行われる場合もあります。このような検査の一番の目的は、「脳のどこからてんかんが起こっているか」を明らかにすることにあります(図2)。そのためには、てんかんを治すための手術の前に、「検査のための手術」が必要になることもあります。それは、脳から直接脳波を記録できるように、頭の中に脳波の電極を埋め込む手術です(図3,4)。そこまでの検査をしても外科治療の効果は期待できないという結果が出る場合もありますので、このような侵襲の大きな検査の適応はよく考えてから行うべきです。

てんかんの外科治療として、最近では脳や神経の「電気刺激療法」が注目されています。特定の脳部位や脳神経に電極を留置して電流を流す治療です。このうち迷走神経刺激療法は今年から保険診療が可能となり、薬物でもこれまでの外科手術でも治療困難なてんかん発作を改善させることが期待できます。

てんかんは、神経の病気の中では最も多いとさえ言われる病気ですが、一般の方にはなかなか理解されにくい病気であり、それゆえの偏見も少なくないのが現状です。このお話がてんかんという病気の理解に役立てれば幸いです。

脳神経外科 橋詰 清隆