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身近なウイルス:HTLV-Ⅰについて

教えてDr.!!8

HTLV-Ⅰとは

HTLV-Ⅰというウイルスをご存知でしょうか? HTLV-Ⅰは,ヒトTリンパ球向性ウイルスⅠ型(Human T-Lymphotropic Virus type Ⅰ)の略称であり、九州・西日本を中心に約120 万人が感染しているとされる身近なウイルスです。驚くべきことに、日本人の約100 人に1 人がHTLV-Ⅰの感染者( キャリア) ですが、そのほとんどは無症状です。名前は似ていますが、HIV(エイズウイルス)とは全く関係ありません。

HTLV-Ⅰの感染経路

主な感染経路は母乳によるものですので、現在は妊婦健診にHTLV-Ⅰ抗体検査が取り入れられ、断乳・短期授乳・母乳凍結融解処理などの感染防止策がおこなわれています。その他、性交渉( 主に男性から女性) で感染することがありますが、コンドームの使用で感染防止が可能です。現在、輸血により感染することはありません。一旦感染すると、一生ウイルスのキャリアとなります。なお、感染を予防するワクチンはまだ開発されていません。感染力は極めて弱いウイルスですので、授乳・性交渉を除く普通の生活で感染することはありません。

HTLV-Ⅰが引き起こす病気

キャリアのほとんどは生涯、病気を発症することなく普通に過ごされますが、まれにHTLV-Ⅰが病気を引き起こすことがあります。

特に重要な病気が、ATL(成人T細胞性白血病・リンパ腫)です。40 歳以上のキャリアは、年間1000 人に1 人の割合でATL を発症すると言われており、生涯発症率は2.5 ~ 5%程度とされています。ATL 発症者のほとんどが乳幼児期からのキャリアであり、成人してから感染したキャリアからのATL 発症はほとんど認められません。その他、HAM(HTLV-Ⅰ関連脊髄症)、HU(HTLV-Ⅰ関連ぶどう膜炎)などの病気を引き起こすこともありますが、その発症率はもっと低く、ATL のさらに数分の1 です。「痛みのないリンパ節のはれがずっと続く」「治りの悪い皮疹がたくさんある」「原因不明の歩行障害・排尿障害」「眼科でぶどう膜炎と言われた」など、HTLV-Ⅰ関連疾患を疑う場合には、医療機関を受診してください。

HTLV-Ⅰの検査

HTLV-Ⅰの血液検査は、最寄りの医療機関でうけることができます。キャリアとわかった場合でも普通の生活をされてかまいませんが、定期的な検診はうけてください。当院では、JSPFAD(HTLV-1 感染者コホート共同研究班)に参加し、年1 回のHTLV-Ⅰキャリア検診をおこなっていますので、ご相談ください。

JSPFAD(HTLV-1 感染者コホート共同研究班)ホームページ http://www.htlv1.org/

内科医長 増成太郎