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悪性リンパ腫について

教えてDr.!!

リンパ球は血液細胞である白血球の一種で、感染症などから身体を守る免疫力の中心的役割を果たしています。

悪性リンパ腫は、リンパ球が悪性化した病気です。患者数は約37,000人で60歳代が多く、罹患率は10万人あたり10人程度で血液腫瘍の中では最も頻度が高く、近年増加傾向にあります。

リンパ球は血液細胞なので全身に存在し、悪性リンパ腫も全身のいたるところで発症しえます。多いのはリンパ節の腫れですが、リンパ節は感染症などの良性疾患や他臓器癌の転移でも腫れるので鑑別には注意が必要です。

悪性の特徴としては、大きさ1.5cm以上で次第に大きくなってくること、痛みを伴わないこと、1か所にとどまらず全身の様々な場所が腫れていることなどが挙げられますが、確定的なものではありません。

また1/3程の症例ではリンパ節以外の臓器から発症します。浸潤しやすいのは造血部位である骨髄や肝臓、脾臓ですが、消化管、肺、皮膚などに病変をつくることもあります。全身症状としての発熱、寝汗、体重減少(*B症状という)の他、浸潤臓器の障害に伴う症状が出現します。

診断のためには病変部の組織を一部採取する生検が必要です。生検された組織は特殊染色を行い顕微鏡で観察するほか、腫瘍細胞表面に発現している蛋白質や遺伝子染色体の異常について詳しく解析します。

WHO分類では悪性リンパ腫は30種類以上の組織型に分類されており、各々で予後(生存率など今後の見通し)や治療方針が異なります。他に病気の広がり(病期【図1】)を決定するための画像診断(CTやPET-CTなど)や浸潤する可能性の高い臓器の検査(骨髄検査など)とともに、その後の治療を充分行えるか主要臓器機能を確認するための検査を行います。

【図1 悪性リンパ腫の病期分類】

病期(ステージ) 症 状
I期 ひとつのリンパ節領域のみのリンパ節が腫れている
II期 上半身または下半身のみの2か所以上のリンパ節領域が腫れている
III期 上半身、下半身の両方のリンパ節領域が侵されている
IV期 臓器を侵していたり、骨髄や血液中に悪性細胞が拡がっている

*B症状(全身症状)…体重減少、発熱、寝汗

悪性リンパ腫の細胞は血液やリンパ液の流れに従い全身に広がるので、通常の治療は抗癌剤による全身化学療法を行います。病気がおとなしく限られた範囲にとどまる場合には放射線療法が行われることもあります。またリンパ腫が胃腸などにあり出血や穿孔(穴があくこと)が起こりそうな場合は、手術することもあります。

化学療法の内容は、悪性リンパ腫のうち日本人に最も多い組織型であるびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫の進行期の場合、複数の抗癌剤とステロイドホルモン剤にリツキサンという分子標的治療薬(リンパ球を狙い撃ちする薬剤)を組み合わせたR-CHOP療法を繰り返すことが標準治療となります。

化学療法の副作用は、胃腸症状(吐き気、便秘、口内炎)、 脱毛, 手足のしびれ, 肝臓や腎臓の機能障害, 心筋障害, 肺炎などがありますが、発症率や程度は様々でほとんどの場合重篤には至らず回復します。必ず起こる副作用に血液細胞の減少(骨髄抑制)があり、特に白血球減少時には免疫力が低下し感染症を併発しやすく注意が必要です。しかし近年は副作用対策が進んでおり、病状が安定すれば外来通院で化学療法が受けられるようになっています。

治療成績は前述のR-CHOP療法の場合、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫全体では5年生存率50%程度と考えられますが症例によって条件は様々です。そこで発症時の状況から予後を推測する国際予後指標が用いられています。

年齢61歳以上、 病期IIIまたはIV期,生活活動性低下(日中50%以上就床)、血液検査でLDH高値、リンパ節外の病変が2個以上、これら各々を1点として合計点数0または1点を低危険群(L)、2点を低中危険群(LI)、3点を高中危険群(HI)、4または5点を高危険群(H)とすると、生存曲線が【図2】のように層別化されました。

【図2 国際予後指標に従った生存曲線】

 

悪性リンパ腫の治療成績は新しい薬剤の導入で少しずつ改善してきていますが、長期的には再発して亡くなられる方の多い病気です。

移植療法も含めたさらなる治療法の開発が今後の課題です。

臨床検査科部長 瀬﨑伸夫